A:陽気な怪鳥 プクーチャ
優れた武人と名高いゾラージャ様には、幼き頃の逸話がある。
剣技を磨くため、素早く飛び回るトゥカリブリを相手に、木剣で修行に励んだのだとか。こうして神速の剣技を体得したゾラージャ様だったが、訓練相手のトゥカリブリも、王子の成長に合わせて逞しくなり……やがて連王宮から抜け出し、大空へと飛び去ったそうな。そして、時は流れ数年前、コザマル・カに巨体を誇るトゥカリブリが現れ、人々を襲いはじめたとき、多くの者が王子の逸話を思い出した。この凶暴な巨鳥が、王子の訓練相手と同じ名で呼ばれているのは、そういう理由さ。
実際に、これらが同一の個体なのかはわからないがね。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
ヨカ・トラルにあるトライヨラ連王国の王都。その南側に広がるコザマル・カの密林を流れる河の傍に巨大な怪鳥が住みついている。
見た目は異常に成長して巨大化したコリブリのような鳥なのだが、この鳥はトライヨラ連王国の第1王子ゾラージャが幼少期に剣技の修行の為に素早く飛び回るこいつと何度もやり合って鍛錬したという逸話を持つ鳥だ。
また、巨大な毒ガエル、レイントリラーもそうだったからコザマル・カの密林に住む魔獣の類いの特性なのか、または単に脳ミソが弱いからなのかは分からないが、怪鳥プクーチャも自分が次に取る行動を声に出してしまう癖があるらしい。どういう事かというと、例えば人にこの癖があるとすれば毒を吐こうと考えたなら「毒!」と叫んでから吐く。飛び上がろうと考えたなら「飛ぶ」と言ってから飛び上がるといったような具合だ。当然武を志す者なら致命的、かつ決定的にアウトな癖だが、野生で生きる魔物、しかも周りの生物に比べ圧倒的な力量差を持つ魔獣たちにしたら全くたいした問題ではないのだろう。
密林の川沿いを半日歩いて見つけた怪鳥プクーチャは羽を広げたら5mは軽く超えるような大きさでその巨大な嘴は長さだけで3m近くある。
プクーチャはでっかい嘴をパカッと上下に開くと実に綺麗な発音で「ブーッス」と声を上げながら鉤爪で掴みかかって来た。
「なっ……!」
あたしは横っ飛びして鋭くて大きい鉤爪の攻撃を躱す。
「なによっ!こいつ!」
「気にしないで!」
相方が声を掛けてくれる。確かにギルドシップの担当者からプクージャは攻撃する時に行動を声にだしてしまうという話は聞いていたが、それを人間の言葉で発するとは聞いていなかった。しかもこの野郎、言うに事欠いて事実無根の中傷を吐いた。あたしは正直、取り乱した。
「でも、今こいつあたしをブスって言った!」
あたしは相方に訴えた。
「惑わされるな!コイツはカタコトだが人の言葉を真似る!」
そりゃ好みは人……いや鳥それぞれかも知れないが、思いもしない言葉を人外から投げつけられ動揺を隠し切れないあたしに現地ガイドが安全な場所から叫ぶ。
「ブースは確か現地の言葉で「右」っていう意味だ!」
「ホントに!?」
あたしは疑いを捨てきれないまま、縋るように言った。現地ガイドは岩陰から頭だけ出して何度も大きく頷いている。
攻撃を躱されたプクージャは再び上空に舞い上がりホバリングしていたが「マーッシ」と声を上げると同時に旋回して相方に襲いかかった。相方は鋭い爪を火花を散らしながら盾でいなし攻撃を受け流した。
おいおい、てめぇどういう事だ?
「……ねぇ、あの野郎、いまマシって言って攻撃したよね?」
あたしは相方に聞いた。
相方はこっちをチラ見してニヤッと笑った。
「!!」
あたしは何故か敗北感のようなものを感じ一瞬言葉を失った。
「マシは確か左って意味だ!」
現地ガイドがすかさず叫ぶ。マジか。
気を取り直したあたしはプクージャを睨みつけたままゆっくり遠巻きにカニ歩きして相方の反対サイドへと移動し、何も無かったかのように再び杖を構えた。
プクージャはあたし達を交互に目で追っていたが、またブーッスと声を上げたかと思うと一度高度を上げ、ヒラッと体を翻し急降下してきた。
あの軌道だと…あたしじゃねーか!あたしはまた横っ飛びして転がった。プクージャの鉤爪があたしのいた場所の地面を削いで通り過ぎる。
「ちょっとお!今あたし右じゃなかったよね?ね?」
あたしは現地ガイドに向かって叫ぶ。
「あ……えっ…えっと……ブスは現地では綺麗とか可愛いって意味だった…かな?」
現地ガイドは小声の早口で弁解する。
「ああん?じゃ、マシはどういう意味なん?」
相方がドスの効いた声を上げて現地ガイドを睨みつける。現地ガイドはビクッと体を強ばらせた。
「ええっ……と、わああ、あぶなーい」
なんの攻撃もされていないのに現地ガイドは横っ飛びに岩陰に隠れた。そんな小芝居で誤魔化したつもりか?
プクージャが両翼を大きく広げあたしを見ながら大きな声でブーッスと鳴いた。相方がこっちを見て再びニヤッと笑ったのを気配で感じる。
「上等だよ、こぉんのヤロー…その歪んだ美意識あたしが叩き直してやる!」
モチベーションの上がったあたしに怖いものは何もない。
コザマル・カ